対談:千村保文と夢請負人たち 土谷 宜弘氏(リックテレコム 取締役)

土谷 宜弘(つちや よしひろ)氏
株式会社リックテレコム 取締役
月刊『テレコミュニケーション』編集部 編集長
「夢」をテーマにお客様の夢を叶える夢請負人たちの、思いや意気込み、事業戦略、プライベートなどをご紹介する本対談。
これまで3回にわたってOKIネットワークスのキーマンをご紹介してきましたが、新年を迎えた今回は趣向を変えて、通信ビジネスの専門誌・月刊『テレコミュニケーション』の編集長である株式会社リックテレコムの土谷宜弘氏をお招きし、今後の通信市場を展望していただきました。
ナビゲーターは、IP電話の普及推進活動の一人者・千村保文が担当します。
[2009年1月20日掲載]
本格化するモバイルブロードバンド オールIPによる"真のFMC"時代もまもなく到来!
千村 本日は、お忙しいところ、対談を引き受けていただき、ありがとうございます。いつもは、土谷様に取材される立場ですが、本日は逆の立場で「通信業界の夢」について、お話しいただきたいと思います。米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な不況により、先行きの不安を抱えたまま新年を迎えることとなりましたが、ここではぜひ、2009年以降の通信業界における明るい未来の可能性についてお話させていただければと思います。
土谷 実態経済がこれだけ悪化すると、なかなか希望を見出しにくいものですが、「通信産業は不況の影響を受けにくい」といわれていますし、"新しい時代"への動きも今後加速していきますから、業界の皆さんは悲観的にならず、ここで踏ん張りを見せてほしいと思っています。
"新しい時代"への大きな節目となるのは2011年。NGN(Next Generation Network)のエリア整備が完了し、携帯電話市場にはオールIPで下り100Mbps超の通信が可能な3.9Gの「LTE(Long Term Evolution)」が登場します。これによって、固定系もモバイルもすべてがIPとなり、"真のFMC(Fixed Mobile Convergence)"が実現される時代となるわけです。ちなみに放送分野では地デジへの完全移行もこの年ですから、「通信と放送の融合」もさらに進展すると思います。
"ケータイ"とは違うジャンルのモバイル需要に期待

千村 そうした飛躍を前にして、2009年はモバイル分野でスタートする新たなサービスが注目されます。2.5GHz帯の免許を割り当てられたモバイルWiMAXと次世代PHSは、モバイルブロードバンドを本格化させるサービスとして非常に楽しみです。
土谷 当初、次世代PHSは下り20Mbps、モバイルWiMAXは下り40Mbpsで、どちらもさらなる高速化を予定していますからね。モバイル通信もいよいよ2桁のメガの世界に突入し、ますます利便性が高まっていくことになります。
千村 これらモバイルブロードバンドサービスは、企業での利用が先行して広がるのではないかと期待しています。例えば、自動車を利用するビジネスでは車内を戦略的なITオフィスにすることもできると思います。
土谷 そうですね。モバイルWiMAXは移動性よりも広域なワイヤレス環境を提供するサービスとして注目している向きもありますから、フィールド業務や屋外に設置された機器の制御など幅広い利用シーンが考えられます。しかも提供形態がMVNO(Mobile Virtual Network Operator)ですから、市場でのきめ細かなニーズにも柔軟に対応していける可能性があります。こうしたことから、いわゆる"ケータイ"とは違うジャンルの需要を開拓できるのではないかと見ています。
千村 私は、モバイルWiMAXなどの新たなモバイルサービスは、Wi-Fi(無線LAN)と組み合わせた利用も広がっていくのではないかと考えています。モバイルブロードバンドサービスでやり取りされるデータは、ネットワーク内ではコンシューマが利用する映像などの大容量データと混在することになるので、トラフィックが集中した場合にビジネス用途で求められる品質がきちんと確保できるかどうかが懸念されます。
そうした時に、Wi-Fiはネットワーク上のトラフィックをオフロードする役目も担えるのではないかと思います。Wi-Fiの世界では、高度なセキュリティを確保しつつ現在の2倍から数倍の通信速度を実現できるIEEE802.11nの標準化作業が進んでおり、2010年の勧告が予定されています。これも企業のワイヤレス環境を広げるうえで注目すべきポイントだと思っています。
スマートフォンが業務用端末の最適形
千村 企業のモバイルブロードバンド利用を促進する要素として、Wi-Fiを標準装備したスマートフォンも見逃せないと思います。電話をメインとした3G/無線LANデュアル端末だけではなく、「iPhone」や「BlackBerry」、今後のアンドロイド携帯などデータ端末として高い利便性を有する機種が充実することで、需要も大きく広がっていきそうです。
土谷 ハードウェアとしての性能・機能が飛躍的に向上したのもさることながら、プラットフォームのオープン化によって社内サーバ上で開発した業務アプリケーションをほぼそのままモバイル環境に移植できるようになることが大きいですね。そのうえで私は、"フォン=電話"であることが、利用者側の馴染みやすさという点で非常に重要だと思っています。業務を効率的に進めるためには業務アプリケーションも音声コミュニケーションも欠かせないものですから、スマートフォンは業務用端末として最適な形態といえるかもしれません。
千村 企業で働く方の多くは社外で仕事をしているにも関わらず、電子化されたデータの活用シーンはこれまで社内のデスクトップが中心でした。しかし、これからはセキュアなブロードバンドモバイル環境によって、社内外を問わずデータを有効に利用できるようになりますから、ワークスタイルも大きく変わっていく可能性がありますね。
土谷 日本では「テレワーク」という言葉がよく用いられ、政府も2010年までにテレワーク人口20%を目指していますが、むしろ「モバイルワーク」に注目が集まるように思います。さらに言うなら、テレワークは在宅、モバイルワークは外勤というようなイメージを描きがちですが、それもちょっと違うように感じます。これからは企業の内外を問わずどこでも仕事ができる「シームレスなワークスタイル」が広がっていくというのが一番フィットするのではないでしょうか。
NGNは中小企業層への広がりに期待

千村 固定通信分野に目を向けると、NGNがどのように展開されていくかが何よりの注目点ですね。
土谷 エリア整備については、NTT東日本から「前倒しで進めていく」というアナウンスもありましたから、サービスを利用できる地域がどんどん広がっていくことは間違いないでしょう。また、コンシューマ向けの「ひかりTV」が結構人気だという話も聞きますから、サービス・コンテンツの面でもNGNならではの特徴が評価されるようになってきたといえます。
千村 通信相手の広がりという点でも2つのトピックがあります。まず、情報通信ネットワーク産業協会が広帯域音声符号化に対応したIP電話端末の品質ガイドラインを定め、「WB7」という適合認定制度を設けたこと。もう1つは、NTT東西が高音質電話や高画質テレビ電話が利用できるNGN対応ソフトフォンの無償提供を開始したことです。これによって、NGNのメリットの1つである高品質な通信をより多くの相手とやり取りできる環境が整備されますから、経済学でいうところの「ネットワーク外部性」が働き、今後の需要を押し上げていくと思っています。
土谷 企業ユースの観点では、NTT東日本が6月から提供を予定している「SaaS over NGN」が興味深いところです。NGNは、高価な専用線を導入できなかった中小企業層に大きなメリットをもたらすといわれています。これに加えて業務システムも安価に利用できるとなれば、導入価値がより具体的な形で見えてくることになります。
千村 それは私も同感です。ただ、日本の産業構造は大手と中小の関係が非常に深いのが特徴なので、中小企業だけにターゲットを絞るよりも、業界・業種といったカテゴリーでサービス展開を考えたほうがうまく行くように思います。
過去の技術・スキルを踏まえて"チャレンジ"と"チェンジ"を

千村 今の経済環境が厳しいのは事実ですが、土谷様のお話を伺いながら、通信市場の今後には大きく膨らむ夢が数多くあることを改めて認識しました。この夢に業界をあげて取り組むことで、新しい時代のビジネスも実りあるものになると思います。そこで、通信ビジネスをメディアの視点で長年見てこられた立場から、われわれ業界のプレーヤーはどのような姿勢で臨むべきかをアドバイスしていただけますか。
土谷 冒頭に触れた通り、通信の世界は今、本当に大きな転換期に差しかかっていて、この2、3年で市場の様相ががらりと変わる可能性も十分あります。とはいえ、これまでの100年を超える通信の歴史の中で培われたものが無に帰してしまうわけではありません。「レガシーは消え去るのみ」というのではなく、過去の技術や経験、スキルを踏まえたうえで、新しい時代への"チャレンジ"と"チェンジ"が重要です。
そして、ビジネスというのは結局のところ、ユーザーに受け入れられなければ成功とはいえないわけですから、「お客様の発展のためにどうしたらいいか」について業界の皆さんが知恵を絞って、新時代のサービスを本当に価値のあるものにしていく努力をしていく必要があると思っています。その点では私も、通信業界と共に歩んできた雑誌媒体の編集者として、情報提供という形で皆さんのお手伝いができればと考えています。
千村 新時代の価値を創造するには、当社を含め通信機器メーカーも大きな使命を担っていると感じています。最後に、メーカーに対する期待をお聞かせください。
土谷 IPにしてもブロードバンドにしても、細かく説明しなければメリットが分からないようでは、ユーザーもなかなか受け入れてくれません。ですから、技術の進歩がひと目で理解できるプロダクトを作ってほしいですね。それともう1つ、ユーザーのニーズというのは非常に多岐にわたるものですが、個別の要求にもできるだけ柔軟に対応して、市場拡大を推し進めていただきたいと思います。
千村 ありがとうございました。お客様の要望にきめ細かく対応したプロダクト・ソリューションの提供は当社の目指すところでもあります。土谷編集長のエールを受けて頑張っていきます。
編集後記(千村 保文)

今回の対談は2009年の初回ということで、少し趣向を変えてみました。普段は、取材をされる立場の業界専門誌「テレコミュニケーション」の編集長・土谷宜弘氏にベンダー・エンジニアの私がインタビューをすると言う形式を採りました。お読みいただいた感想は、いかがでしょうか?
今回の対談では、予定調和的な事前打ち合わせは一切行わず、「2009年の通信業界予測と発展の可能性」を語り合いました。私としては、とても勉強になりました。土谷様は、一流の編集者として鋭い視点をお持ちです。ベンダー同士やユーザーである事業者の方、企業の方との会話とは別に、業界の課題に対して中立な立場でご指摘いただけたのではないかと思います。
対談で印象的だったのは、「過去を踏まえて"チャレンジ"と"チェンジ"」と言う言葉です。厳しい市場環境のなか、つい内向きになりがちなベンダーに対して、「過去は捨て去るのではなく、過去を踏まえて自信をもって"チャレンジ"すべき」という提言は、業界人にとって心強いエールであると思います。本対談では、今後もさまざまな趣向で業界の未来について考察しながら、OKIネットワークスをもっと知っていただけるよう工夫していきます。
千村 保文(Yasubumi Chimura)
株式会社OKIネットワークス セキュリティ・アンド・モビリティビジネスユニット
エグゼクティブ・スペシャリスト
兼 OKI キャリア事業本部事業統括部 上席主幹
兼 OKI IP電話普及推進センタ(IPTPC) センタ長
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